May 09, 2007

高校野球特待生問題考

金沢に尾山台という私立の高校がある。20数年前には、受験では最後の最後の滑り止め、野球の大会では一回戦コールド負けが当たり前、つまり勉強もスポーツも全然ダメな学校だった。

金沢を離れてしばらく経った頃だったと記憶する。旧友と久しぶりに会い、会話に尾山台が出てきた。「さこちん、知っとるけ?尾山台って今、進学校ねんぞ。もうビックリや」。

僕の高校時代のあだ名は「さこちん」だったわけだ。それはともかく、よりにもよって、尾山台が「進学校」とは、過去を知っている者として、本当に、にわかには信じ難い話だった。そう聞いてから、夏の県予選の結果を追っていると(それまでは気にも留めていなかった)、甲子園には出ないまでも、あの安パイだった学校が、大会を勝ち進むようになっている。学校経営者が代わったのか、それとも変わったのかは知らないけれども、もう僕の知っている「尾山台高校」でないことは間違いない。ともあれ、傍目には、尾山台は生まれ変わったように見える。

さて、特待生問題である。

石川県では、星稜をはじめ、私立高校があらかた該当しているようだ。件の尾山台も名前が挙がっていた。やっぱりな。伝統もない弱小校が強くなるには、それなりに選手が集まる環境を急ぎ作らなければいけない。それが「特待生」というやり方だったワケだ。才能がその個人の資質に拠るのは当然だが、伸びるかどうかは環境との相性が大きい。高校球児にとっての最大の環境とは、「指導者」だ。まず良い指導者を連れてきて、次に、「できれば良い環境で野球をやりたい」と思っている<野球少年>を勧誘する。そうすれば、石川の高校野球レベルでは、ベスト8の常連くらいにはなれるだろう。俺が監督をやっても、それくらいの自信はあるな。なんちゃって。

今、なぜ「特待生」が問題になっているのか。それは高野連が<文書の上で>禁止しているからだ。では、なぜ高野連は特待生を禁止するのか。本をただせば、越境入学を防ぐのが目的だった。ならば、真に問題にすべきは「越境入学」の方だろう。でも、そんな学校経営にまで踏み込んだ制約を、たかが高野連ができるハズもない。それで、「特待生禁止」というお茶を濁したような決まりを作ったわけだ。

問題がこじれているのは、高野連が無責任だからだ。「特待生を禁止する」というルールを作ったことで、世間に向けて、責任を果たしたようなポーズを取り、一方では、その<不法な>特待生達の活躍で盛り上がっている高校野球人気に胡坐をかいたまま、ルールが徹底されるべくろくな努力もせずに、事実上放置してきた。そして、自らがそのルールを形骸化させていたにもかかわらず、世間のざわめきに動揺して慌てふためいている。いい年こいて、ウソ泣きしたら勘弁してもらえるとでも思っているのか。みっともない。

ルールは、決めた側が責任を持って適正に運用することで、初めて「守るべきルール」になる。ことここに及んで、いまさら、ルールを守らなかった場合の罰を議論しているようでは、「『特待生禁止』というルールは、文書化はされたが、まだ施行されていない状態だった」と言われても仕方ないだろう。

まずやるべきは、「無責任なルールを定めてごめんなさい」だ。そして、一旦、「禁止ルール」を形式的に取り下げることだ。当然、当該校は、特待生を除外したり大会への参加辞退をする必要もない。だって、まだ施行されていないんだもの。こんな簡単な認識がなぜできないか。

特待生や越境入学を禁止することは、一片の文書通知で済む問題ではなく、「高校の部活動として野球をやっている」という仕組み自体が問い直されるほどの大問題だ。つまり、高野連は、自らの存在意義を賭けて特待生や越境入学を「禁止」しなければいけない。わかってんのかなあ。